みなさんは「下地島(しもじしま)」という島をご存知でしょうか?・・・航空ファンの方々なら「当たり前だろ!」とお叱りを受けそうな位、マニアにはメジャーな島なんですが、単なる旅行好きの方であれば意外とご存知ない島ではないかな、と思っています。
この下地島、地理的には宮古島の沖にございまして、宮古島からフェリーで25分、高速艇で10分の距離にある伊良部島に降り立てばそこから陸路にて約15分も走れば下地島です。
・・・おい、島から島へ陸路ってなんだよ!という方。実は「伊良部島」と「下地島」はほぼ川にしか見えない「海」に隔てられているものの、そのあまりの距離の近さ故、小さな橋だけで渡れてしまうため、説明がなければ「別の島だと気づかない」位一体化しているので、こういう表現になります。
また、2015年1月から「宮古島」⇆「伊良部島間」を結ぶ3,540mの海にかかった橋「伊良部大橋」の供用開始により「宮古島」「伊良部島」「下地島」が陸路で移動可能という状態になりましたので、より一体化した一つのゾーンを形成するに至りました。故に、下地島へ通う際のフェリー移動の旅情は消え去り、現在では路線バスにて伊良部島に入ることが可能になってしまいました(・・・なってしまいましたというか島民の方々には、大変利便性が上がったので喜ぶべきことでしょうが)。
そんな下地島、なんかすごいリゾートでもあるの?!とこのブログをご覧の方は思うでしょうが、違います。冒頭で「航空ファンの方々・・・」と書いた点でもご想像いただけます通り、この島はの売りは「飛行機だったのです」。
と、いうのも。
下地島(しもじじま)は、宮古列島の島のひとつである。行政区分としては沖縄県宮古島市に属する。2005年に宮古島の周辺自治体と合併して宮古島市になるまでは、東側に隣接する伊良部島とともに宮古郡伊良部町を形成していた。国内で唯一、パイロット訓練に用いられる下地島空港がある。(Wikipedia)
と、書かれている通り「パイロット養成用の空港」があるというのが最大のこの島の面白さでした!・・・ここで過去形で書いているのには訳がありまして「現在はパイロットの訓練はここでは行われていない」のです。2011年を最後にJALが、2014年を最後にANAが同島の空港における訓練を終了したため、現在は施設維持のみが行われており基本的には休眠空港となってしまったためなんですね。とはいえ、琉球エアコミューターと、海上保安庁が小型機の訓練で使用はしていますので、若干の離発着はあるかと思いますが。
そんな下地島の魅力を今回は、お伝えしていきたいと思いますっ。
全盛期はジャンボの愛称で親しまれた「Boeing747」を含め、ほぼ全てのANA、JALの機材の訓練が行われていたので非常に活気があり、空港の横に建てられたパイロット宿舎には人が溢れかえっていて、現役パイロットの方々にも思い出深い島だと思います。私個人も何度か訓練を見学に下地島へ行った経験がありますので、この訓練終了の情報はとても寂しく思ったのを覚えています。
また、多くのパイロット及び航空ファンに愛されたこの島の魅力はなんといっても豊かな自然です。島の全周を取り囲むサンゴ礁により独特なエメラルドグリーンの色味を帯びた海と強い日差し、人口が少ないためどことなく浮世離れした風景、そして地元のお店でいただく美味しい海の幸や宮古牛を使った料理・・・など、厳しいパイロット訓練が行われているにもかかわらず、この世の天国のような環境がそこにはあるんです。訓練で追い込まれた若きパイロットたちも空き時間に海に潜ったり、砂浜で日焼けをしたり・・・天国と地獄が同居する下地島の魅力は、ただ訓練を見に訪れた私たちにも十分に伝わってくるものでした。
また、この島を少しでも理解する上では、フィクションではありますが、訓練全盛期の様子や島の暮らしを丁寧に描きつつも、航空機という世界の魅力も余すことなく伝えてくれる『機体消失』という本がおすすめです。この本は元ANAの機長だった「故・内田幹樹(ウチダモトキ)」氏が在職時〜退職後にかけて小説家として活動していた際に書かれたものの一つで、心から航空機を愛するキャプテンの思いがひしひしと伝わってくる素晴らしいシリーズの中の一冊となります。
さて、そんな下地島の訓練風景をまず覗いてみましょうか。
今回使用している写真はかなり過去のもの(2011年)なのですが、JALの訓練が終了し下地島全体をANAグループが使用している時代のものです。時期はちょうど夏、一日を通して強い日差しが照りつける、まさに「南国」といった雰囲気が満ち満ちている季節の訓練にお邪魔しました。
下地島空港に到着してみると、エプロン(駐機場)には訓練待ちで待機している機体が2機。本日の訓練は「Boeing767-300」と「Boeing737-700」、2つの乗務部が訓練を行うようです。偶然の産物ですが、737乗務部の訓練で使用する機材は「GOLD JET」。今はもう見ることができない機体ですが、下地の日差しに照らされるこの機体を目にした瞬間不意にテンションがあがる自分がいたことを思い出しました。
この空港は訓練で使われるため、一般旅客には極めてマイナーな空港なのですが、空港としての機能は一級品です。定期便が就航していないため、ターミナルなどの施設はごく小規模ですが、幅60m×長さ3,000mの国際空港級の滑走路が設置されており、且つその滑走路両端には「ILS」と呼ばれる計器誘導装置も備わっています。そして、この長い滑走路を活用することで、下地島ならではとも言える「タッチアンドゴー」と呼ばれる訓練が実現しました。
「タッチアンドゴー」とは、一旦滑走路に着陸した機体をそのまま大きく減速はさせず、滑走路上で離陸の準備を整え、そのまま離陸をしてゆくという「離発着訓練回数を増加させるための訓練方法」でして、通常の空港ではほぼ見れない下地ならではの光景として人気がありました。実際に目にしてみると、着陸してきた機体がしばしの滑走の後、再び離陸用のパワーを出した大きなジェットエンジン音を轟かせ大空に消えて姿は爽快!の一言。あの迫力を目にした人は航空機の素晴らしさと、下地島訓練見学の面白さにとりつかれてしまったことでしょう。
さて、目の前には本日の訓練のメインである「Boeing767-300」が訓練を始めるべく誘導路を滑走路に向かい地上移動してきています。本当に強い日差しに照らされ、白とトリトンブルーで描かれた機体のカラーが最高に映えています。この機体の中には乗客は当然おらず、訓練生2名と教官1名が乗っているのみ。この下地の成績如何でパイロット訓練が終了してしまう(パイロットになる道が絶たれる)訓練生もいますので、我々が夏の日差しを受けながら南国を満喫しているのとは打って変わり、一年中温度の変わることのないコックピット内部では緊張、使命感、希望・・・と様々な気持ちの入りみだれる訓練生が人生をかけて戦っていることかと思います。
そんな訓練生が操縦する767がいよいよ大空に飛び立って行きました。
基本的に下地での訓練は離発着を中心とした最小飛行経路での飛行訓練が主軸となりますので、機体は離陸してすぐに場周経路と呼ばれる長方形のような形の航路を活用して空港へ帰ってきます。写真のように「RWY17(ざっくり北側→南側へ伸びた滑走路)」を活用して離陸した場合は、再びRWY17に帰るためにすぐに右旋回し、滑走路と並行に飛んだ後に再び右旋回を繰り返し最終進入経路に入り着陸をしてきます。・・・この場周経路は極めて短い経路ですので、晴れていれば離陸から着陸まで機体が見えなくなることはありません。
逆に言えば訓練生たちは離陸からタッチアンドゴーを繰り返したのちの着陸・完全停止まで休む時間が一切なく、当然訓練ですから自動操縦装置も使いませんので自分の持ち分が終わるまでの約30分間はものすごい集中力で機体を飛ばし続けなくてはいけないのです(・・・といっても、実際は集中力を維持するために、水平飛行時間の長いダウンウインドと呼ばれる区間では、教官が操縦を変わることにより汗を拭いたり、水分補給したりする時間を与えるようです)。
離陸した機体が4回目の右旋回を終えると目の前には滑走路が広がり着陸訓練です。まだまだ767の様な大型機を飛ばし始めたばかりの訓練生たちは、その機体の慣性、周囲の風、機体のコントロールに手を焼きながら着陸を目指します。外から見ていても機体が不安げに左右に揺れ、滑走路中心部になかなか機体を導けず苦労をしている様子や、滑走路へ向けた進入角度の調整に苦慮し、機首が下がったり上がったりする様子が見て取れます。車など陸の乗り物と違い、航空機は「前後左右」に加え、「上下」の概念のある3次元の操縦が求められる乗り物ですから、このすべてのパラメーター(値)を思い通りに揃えて機体をコントロールするという作業は想像以上に難しいものなのです。
例えば「高度が高い」と思って機首を下げれば当然機体の速度が「上がります」。逆に「高度が低い」と思い高度を維持するために機首を上げれば機体の速度は「低下」します。機体速度が下がったと思ってエンジンパワーを加えると今度はその推力の結果と推力慣性により機首がさらに「上がって」しまいます。結果機首を抑え込もうとすると、今度はさらに増加した推力と、下げた機首により機体のスピードが「ガーンと上がって」しまいますので、一つ一つの操作の結果を考えて行わないと「ぜーんぜん求めたところに機体が進みません」。
航空機は滑走路へ進入する際、接地する際の速度が厳密にその日のコンディション(風速、風向、機体重量など)で決まめられますので、それを1ノットも超過せず、割り込みもせず、同時に決められた進入角度(降下角度)を維持しながら、且つ右にも左にもブレずに滑走路中心部へ降ろす・・・というのは想像を絶する難しさなのです。もちろん、滑走路はどこにでも降りてもいいわけではなく、飛行機が確実に停止できる距離+余剰分をしっかり担保するために「ここに接地しろ!」というポイントがありますので、そこへ向けて機体を導く・・・というような様々な条件をクリアしてゆく必要があります。
ですので、見ているだけで「あ〜あ〜あ〜」という状況はまれに出現するわけでして、上の写真もその困難な状況の結果の一つです。最後の最後で降下角度が強くなりすぎた場合、滑走路にぶつかる様に接地してしまいますのでおそらくコックピットでは「(操縦桿を)引け!引け!」と教官の怒号が響き渡っているのでしょうが、言われてすぐできるものではありません。我に返って操縦桿をグイっと引き寄せた時は時すでに遅し、十分なフレア(機首をあげて、ゆっくり接地させる)操作が出来ていない結果「どかーん!」と滑走路に接地、盛大なタイヤスモークをあげた上に機体はバウンドし再度空中へ・・・というまさに「後でめっちゃ怒られる」着陸の出来上がりです。
僕ら見学組は人の苦労などいざ知らず、壮絶な訓練がなされている様子を見学しながら「おー!」とか「うわー」とか言って写真を撮っているだけですので気楽なもんですが、訓練生たちの訓練後の疲れ切った顔を見ると、いかに大変な時間を過ごしてきたのかが分かります。
・・・今回はちょっとマニアックな航空ネタが多くなってしまいましたが、これから何回かおりを見て下地に関しての記事を書いていこうと思いますので、操縦訓練や下地島にちょっとでも興味がわいた!となっていただければ幸いです。また、より下地訓練の内側に迫る企画も検討していますのでそちらもお楽しみに。
もう、こういった訓練風景を見ることができなくなってしまったのは残念でしょうがいないですが、少しでも下地訓練を知っている方、そして興味がわいた方とブログを通して時間を共にできればこれほど嬉しいことはありません。自分で撮った写真の中には大したものがありませんが、少しでも雰囲気を知っていただくためにアップしていこうと思います。(まだまだありますので!)
書いているうちにあの日差しを浴びたくなってきました。
まだ島の宿は泊まれる様ですので、飛行機はいないですが行ってみようかなぁ。。。
ではまた!
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【コメント・メッセージ】
タヌキ猫さん、こんばんわ!
きっとタヌキ猫さんが訓練時代に下地に行かれていたら大興奮だったと思いますよ。シグナスではなく、鶴丸ジャンボのタッチアンドゴーが目の前で見れたわけですからねっ!特に777や747クラスがリーフの上を進入してくる様子は迫力が違いすぎて笑っちゃうくらい勇壮だったので、ぜひ味わっていただきたかったです。
現在JALは実機での訓練はグアムで、そしてANAはセントレアをベースに実施していますよ!特にセントレアは一般機に混ざっての訓練密度が高いので、かなり教官は気を使うようです。
StyleDeptさん、こんばんは♪
一度は訓練で飛行機が降り経っている時に訪れてみたかった
下地島ですね!!
もう、JALもANAも訓練から撤退してからの橋完成で
アクセスが格段に良くなりましたが、やっぱり訓練をやっていてくれないと
行く機会がなくて・・・(汗)
あの海から入ってくる姿をジャンボの時に撮れたら
どれだけ良かっただろうなぁ~と思っちゃいますよね。
ANAだと、もう、まるっきり実機での訓練は行っていないのでしょうか?