【こんなに速くて大丈夫?】Audi RS3 インプレッション!

クルマ関係

車好きな私は先日「スーパー耐久」を見に行っておりました。仲の良いレーサーや、チーム関係者も多いので陣中見舞い的要素も強いのですが、なによりもやはりレーシングマシンが全開でコーナーを駆け抜けていく様子を目と耳で感じるのがたまらないというのが大きな理由です。

今回はこの「スーパー耐久」について・・・ではなく、往復を共にした相棒のお話をしようと思います。

現在スーパー耐久には様々なクラスがあるのですが、輸入車に関しては「Porsche」「Ferrari」「Audi」「VW」「Mercedes-Benz(AMG)」「Aston Martin」「Ginetta」「X-BOW」あたりが出走しています。輸入車好きの方はS耐や、ブランパンアジアあたりを見に行くととても楽しいでしょうし、近年では「スーパーGT」の「GT300」クラスに出走する輸入車のバラエティも豊かになり、結構楽しめると思います。

昨年のスーパーGT菅生戦は「Porsche 911」で見に行っておりましたので、今回は趣向を変えS耐の「ST-TCR」クラスに参戦している「Audi RS3 LMS」の市販モデルである「Audi RS3」を引っ張り出して向かいました。・・・せっかくなので・・・と、前回の「718 Cayman」に続き素人インプレッションを懲りずにやってやろう(あくまでも「素人インプレッション」です。)・・・というのが今回の趣旨です。

また、内容自体は「RS3はものすごくよくできたクルマだった」という前提に立って書いていますので、一部厳しい指摘もあるかと思いますが「へぇ〜そんな風に思う人もいるのね〜」的な、生暖かい目でお読みいただけるとありがたいです。
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● Audi RS3とは?

さて「Audi RS3」をよくご存じない方のために簡単に解説しますと、アウディのミッドサイズラインナップである「A3」の最上級版であり、最も硬派なスポーツドライブ(もちろんサーキット走行も視野に入れた)を志向するマニアのためのモデルということになります。エントリーモデルから順に「A3」<「S3」<「RS3」とハイパワー化し、それぞれの走るための装備も豪華に、硬派になっていきます。

Photo by Audi AG

もっと簡単に説明するのであれば、「メルセデス」の「AMG」「BMW」の「M」に匹敵するラインナップカテゴリーが「Audi」の「Audi Sport」です。この「Audi Sport」カテゴリに吸収される市販車が、「RS3」「RS Q3」「RS4」「RS5」「RS6」「RS7」「SQ5」そして「R8」(※漏れてる車もあるかも・・・)ということになります。車格的には「BMW」の「M2」の対抗ってくらいの位置付けかと思います。・・・まぁ、各社のガチ・モータースポーツ系モデルの中におけるエントリーモデルとして考えた場合おそらく総合点ではこの「RS3」が最高点なんじゃないでしょうかね。パワー、安定性、操縦性、キャビンの質感は競合に対してズバぬけていると思います。

Photo by Audi AG

そんな「RS3」、総合点通り並み居る強豪を押しのけて本当に私が欲しいと思う1台だったのでしょうか?

これからインプレッションを通して、私なりにRS3を分解し、私が求めるスポーツカー像に当てはまるのか否かを考えていってみたいと思います。まぁ、ケイマンの時もそうですがあくまでも素人である私の一私見ですので、お読みになった皆さんには「共感」だったり、「反論」だったり色々あると思いますが、まぁそんなもんだと思ってください。

●(エクステリア)サイズ感

Data sheet by Audi AG

まず「RS3」の外装サイズです。あの・・・勝手にいっつも比較対象は「911」にしますので(笑)、それをベンチマークとして考えていってみたいと思います。

 全長全幅全高ホイールベース
RS34,345mm1,800mm1,440mm2,630mm
991 Carrera S4,491mm1,808mm1,303mm2,450mm

意外と外寸は似たり寄ったりなのです。まぁ車高が高いのでぱっと見はもっとズングリムックリしたコンパクトハッチに見えますが、印象と数値は異なるってことですね。まぁ、やはり「911」の特殊性を毎回感じざるを得ないのがホイールベースですよね。「RS3」は全長が15cmも短いのに、ホイールベースは18cmも長いんです。まぁ、こっちが普通のディメンジョンだと思いますけど。前回も比較に出てきてもらった「BMW M2 Competition」のホイールベースは「2,695mm」です。

じゃぁ、具体的なこの数字を構成しているスタリングを見ていってみましょう。

●(エクステリア)デザイン、スタイリング

基本的なコンセプトは「A3」から変わっていませんので、誰がみてもそれが「Audiの3」であることはすぐに理解できます。しかしながらそこは「Audi」、地味〜に機能を向上させてまして、トレッドがフロントで25mm、リアで10mm拡幅してますのでそれに対応したワイドフェンダーが装備されています。これ見よがしなブリスター形状だったり、オーバーフェンダーになっていないのがいかにも「アンダーステートメント」を標榜するブランドらしいデザイン手法だったりしますが、フロントスポイラーの形状がよりエアロダイナミクスを重視した複雑な形状に変更され、ブラックアウトされたシングルフレームグリル、「quattro」の文字が備えられたチンスポイラー部などよく見るとかなり攻めたデザインになってますよね。詳しくは言及しませんが、リアスポイラーには「ディフューザー」が備えられ、ハッチバックのルーフ部には「ルーフスポイラー」も備わってますので、真横に素の「A3」が並んだら、相当にマッチョなマシンに見えることと思います。

何かっちゅーとすぐに縁取りを赤く塗っちゃったり、カーボンパーツを貼り付けたり、訳のわかんない空力フィンでお茶を濁したりする某国産系の「RSモデル」と違って、安っぽくない仕上がりになっている点は本気で安心しますよね。。。(とかいいつつ、RS3のリアディフューザーはかなり形状的には「なんちゃって仕様」ですけどね。)

走りとしてのやる気感を感じさせるスタイリングという意味では今回私が乗っている「スポーツバック」ではなく「セダン」の方がトランクがあるので羽をつけたり雰囲気は出しやすい気がします。

こっちが「セダン」形状のRS3(RS3 LMS)レースモデルです。

●(インテリア)デザイン

意外と知られていないのが「Audi」の内装の質です。これは圧倒的だと思います。最近のメルセデスは室内のアンビエントライトの色が変わったり、派手派手しいパーツが付いていたり「ゴージャスな内装!」って勘違いしやすいですが、パーツひとつひとつの精度や製造コスト、徹底した素材へのこだわりという意味では「Audi」の内装はもっと多くの人が触れ、その良さを理解すればいいのになぁ・・・といつも思っています。

例えば写真にあるエアコン吹き出し口なんですが、このシルバーの部分はダミーではなく本物のアルミニウム削り出しを使用しています。削り出しですので、触った時のヒヤッとした触感も心地よいですし、何より非常に高い精度で削り出されたギザギザになっている部分の触感たるや・・・!です。またこのリングを1/4回転させると吹き出し口を閉じたり、開けたりできるのですが、その際のクリック感も高い組み付け精度とパーツ全体の高い剛性を感じさせてくれますので、エアコンの吹き出し口ひとつをとっても「金かかってるよ!」って言わないけど、かかってるのがアウディです。

とはいえ「RS3」は車格としては「3」のラインですので、必要以上にゴージャスではなく、全体としてはカジュアルなデザインの内装です。人によっては物足りなく感じるかもしれないですね。スイッチ系もステアリングに集中配置していますので、あまりセンターコンソール部分にボタンなどはありません。ナビやオーディオ、そのほかのインフォテイメント系の操作は「Audi MMI(Multi Media Interface)」と呼ばれるダイヤルとタッチパッドで行われますので至極シンプルです。

スポーツシートが装備されており、Dシェイプのステアリングもありますが、これ見よがしのスポーツデザインな何か?は設置されてませんので、スポーツカー的な感覚を求める人にはややこれまた物足りないだろうなぁ・・・と思いますし、私自身乗り込んだ際に「おぉスポーツカーだなぁ・・・」という印象は1mmも受けませんでした。ただ、これはアウディというブランドにおいてはむしろ「是」とすべき要素であり、そういう風に作ってるのだろう思います。

や、ありますよ?ステアリングの「RS」ロゴだったり、シフトレバーの「RS」ロゴだったり、ダッシュボードのヘアラインには「カーボン素材」が使われてたりとかね。でもまぁ・・・これで「すんげぇスポーツカー乗ってるぜ!」とは思わないじゃないですか。

因みに、私がずっと「R8」以外のアウディモデルに対してネガだと思っている項目の一つが「吊り下げペダル」を使っていることですね。「RS」のようなスポーツモデルですら「オルガンペダル」に変えてくれてません。微細な踏力の調整や長距離を走るにはこのオルガン式が不可欠なんですがね。故にこの点においても私が「RS3」をスポーツモデルとして認識できなかったという説明ができます。そして、ブレーキペダルはやや右側にオフセットしており、左足ブレーキもちょっと使いづらかったので、この車に関しては80%くらい右足でブレーキを踏んでいました。

インテリアの余談としては、やはり左ハンドル設計を右ハンドルとして売っている(もちろん右ハンドルモデルとしてちゃんとアウディも開発している)点での、超絶微細な、でもこれが実はとっても大きな「不都合な真実」はやはり存在しています。たとえばマニュアルシフトモードで走り続けたい時にはシフトレバーを「D」から「M」へと横へ倒すわけですが(多くの2ペダルモデルがこの方法ですよね、PDKもそうです)、この倒す方向が右ハンドルだと「ドライバー側から外側へ」の操作になります。本来は「ドライバー側へ手繰り寄せ、操作距離を短くする」意味もあるシフトレバーの移動なんですが、コレ逆になっちゃうんです。とか、「エンジンスタートボタン」がなぜかドライバー側ではなく、助手席側にある・・・とかですよね。すっげー些細なことですが、「些細なことが大切なんですよ!オタクは!」って気分です。最近右しかどこのメーカーも導入されないけど、正直本当に右は嫌です。「なんも感じない」って人はその程度の感性なんですよ(笑)なので我々が「過敏」なのではなく、右の輸入車が嫌いだっていってる人たちの多くの方がその点においては強い感性を持っているだけだと思います。「左ハンドルを輸入車だと思っている」とか、「左ハンドルがかっこいいと思ってる」とかよく揶揄されますけど、真実は違います。ただ、この感覚を理解できない人ができない人の経験と感性でどんだけそのクソ狭い想像力を働かさせたところで「想像力の限界の先」に我々の真実はあるので、分かるわけないんです。こればっかりはしょうがないです。

●(インテリア)バーチャルコックピット

現代アウディの内装におけるハイライトの一つといえばやはり「バーチャルコックピット」でしょう。旧来のメーターが存在していたインストゥルメントクラスターの内部が全て大型のTFT液晶となり、車両の情報は全てこのTFTに表示されるのです。液晶ですので、内部のデザインも自由であり、表示の変更やモデルごとの違いを作るのもソフトウェア内での設計(ソフトの書き換え)のみですので、利便性が取りざたされますがメーカー的には壮大なコスト削減であるとも言えますね。

アウディの場合「RS」モデル以上のバーチャルコックピットは「センターレブ」式の表示となり、ご覧のようなレーシーな画面表示が現れます。なんともやる気が出る表示方法ですし、実際数字も見やすく、更に様々な車両情報が上手に一画面の中に収まっておりますので文句なく使いやすいと感じることができるのがこのバーチャルコックピットです。

Audi A7のコックピット | Photo by Audi AG

この辺の最新技術をどんどんと実戦投入してくる速さが近年のアウディの売りでもあり、最新の「A6」「A7」「A8」では、センターコンソールから物理ボタンが消え、エアコン、オーディオ含め全てハプティック(タッチセンス付液晶画面)でのコントロールとなっていたりもします。この「RS3」は2016年発表で、日本には2017年に導入されていますので現代アウディではありますが最新のインテリアコンセプトに切り替わる直前のモデルですのでそこまでの電脳化はされていないものの、バーチャルコックピットを中心とした「Audi MMI」による集中コントロールのコンセプトは装備されており、慣れてしまうと目線を外すことなくステアリングのスイッチで様々な情報を切り替えながらドライブを楽しむことが可能です。

さて、こんないいことづくめのバーチャルコックピットですがモータースポーツ好き、スポーツドライブが好きという私の立場からすると多少物足りない部分もあったりします。例えば、少しペースを上げて走っている時や、クローズドコースを走る時を想定すると、画面上のレブカウンターの針が細くて目立たないため、瞬時にどこの回転数にいるのか判別しにくいのです。もちろんレブ付近では画面がイエロー表示とレッド表示に切り替わりシフトアップを促しますのでオーバーレブの危険性はないのですが、瞬時に目でエンジン回転数を把握しにくいのはデザイン上のスマートさを優先させすぎている嫌いがあります。

更に走る人とすれば、画面上に大きく出て欲しいのは「速度」の情報ではなく、「シフトポジション」であるはずなので、ご覧のようにシフトポジションが小さく表示されるのは「スポーツカー」として分類し、販売している車格を考えると若干「違うんじゃないか?」と思わざるを得ません。(※上の写真で「D1 / Auto」と書かれている部分がシフトポジション表示です。)

そして「スポーツカー」という立ち位置を考えると、実は画面表示の中に「油圧」を表示させることができません。「油温」は左下にホリゾンタルバーと数値で表示されていますが、ちょっとこの点も残念です。ポルシェ系では表示できる電圧表示もないんですよね。ま、水温に至ってはおおざっぱなホリゾンタルバーのみですので、正確な温度を知ることすら叶いません。高速度走行をする際にはこの辺の車両情報を一括して把握したいのですが、表示位置も分散されていますので、やりにくいなぁ・・・と。もし、トラックモード的に表示させる方法があるのでしたら私はそこまで到達できていなかったのですみません・・・という感じです。教えてくださいね。

ちなみに「RS3」では通常911で日常的にチェックしている「タイヤ空気圧」の表示もありますので、この辺も車両状態の把握にとても有効ですし、911と違いタイヤ(内)温度も表示されますので、この点は「羨ましいじゃねぇか・・・」という感じです(笑)。

写真の様に、エンジン始動直後にはタイヤ圧が表示されず、一度「25km/h」以上で走行する必要があります。この点はエンジン始動直後にタイヤ圧を表示してくれるポルシェ方式の方が助かる場合も結構あるかと思います。

●運転した第一印象は?

さぁ、実際に「RS3」を運転した印象をお伝えしていきたいと思います。まず感じるのはクルマ全体の素性の良さでしょうか。しっかりと4輪が路面をホールドし、余裕のあるボディ剛性によりサスがしっかりと働き、アウディ最新の電子制御により破綻の遥か前で様々な挙動をマイルド化してくれています。ご自慢のハルデックス式4WD機構を持つクワトロは常に前後駆動を最適化しているので、当然「今どういう制御がなされているのか」など体感できるわけもなく、とにかく安心して踏んでいけば車は安定してかっ飛んでいきます。

車内からはとても車がコンパクトに感じます。ある意味横幅感とかは911よりコンパクトに感じますし、鼻っ面の動きも軽く目線位置(着座位置)が高めなので非常に車両感覚は掴みやすく運転が楽な車です。フロントの接地感も非常に高く、フロントにエンジンを積んでちゃんと前に重量物のあるディメンジョンの車としての感覚がステアリングを通して伝わってくるので万人向けな安心感を備えている点が「RS3」の良さだと思います。

ボディ剛性は普通に考えれば「相当高い」部類かと思います。911と印象が違うのは、フロント部分にエンジンなどが入り、大きな空洞を補強する形になっているため、911にある「強烈に硬い鉄板の上に座っている様な剛性感」ではないのです。故に剛性感は高いけど、911の「金庫の中に座っている様な雰囲気」を得ることはできません。室内の音量という意味でも閉め切って走っている場合は非常に静かであり、一瞬「これA3なんじゃないの?」と思ってしまうほどです。確かに全開加速時には後方からけたたましい咆哮が聞こえてきますが、車全体を包み込む様なサウンドではないので比較的大人なエクゾーストサウンドデザインがなされていると思います。

●5気筒ターボってどう?

エンジンは「直列5気筒・2.5L・TFSIエンジン」が横置きで搭載されています。5気筒のインタークーラー付ターボエンジンです。当初は367PSで出てきたエンジンですが、2018年のマイナーチェンジで400PSにパワーアップされ、今回私が乗っているのはこの400PS版です。この400PSを5,850rpm-7,000rpmで発生し、トルクは48,9kgmを1,700rpm-5,850rpmで発生します。・・・実は私の当日のメモでは「6,000手前までが美味しいゾーン、それ以降は惰性」と書かれたものがあったのですが、上記の諸元を見ると私は「トルクが下降曲線にはいる地点」まででこのエンジンの美味しいところは終わる、と感覚的に判断していた様です。意外と肌感覚って正確なんですね(笑)。

実際確かにピークパワーは6,000手前から7,000まで発生する訳なんですが、この辺の回転域ではややエンジンから紡ぎ出される押し出し感が薄れ、回転フィールもややガサついた印象を受けます。それもあり、ほぼ6,000直前でシフトして乗っていた記憶があります。サーキットや峠で走りまくっている方の個体はもう少しエンジンが鍛えられてこの辺のパワー感が出てくる可能性がありますので、個体差があると思います。逆に下の回転数は感覚的に2,500、欲を言えば3,000回っているとパンチがあって鋭い加速をしますし、ターボチャージのラグ感も最小に感じられるのがこの辺の回転数域です。前回の718ケイマン同様、ある程度の回転数からトップエンドの遥か前までの中回転域を上手に使ってトルクで乗るエンジンという印象を受けました。

●クワトロ、サスペンションセッティング

Photo by Audi AG

アウディはやはりクワトロ(quattro / 4WD)であることが有名でもありますし、コアテクノロジーの一つでもあります。もちろん市販されているモデルにはクワトロじゃないモデルも多く、それらはFFモデルとなっていますが、この「RS3」もFFベースのクワトロだということになります。また、レギュレーションの関係で現在スーパー耐久の「ST-TCRクラス」へ参戦している「RS3 LMS」は全てFFのレーシングカーです。

しかし圧倒的な熟成が進み、現代アウディのコアでもあるクワトロモデルはその走行感も洗練されており、何のインフォメーションもなく走り出せばそれが4WDであることに気づける人は皆無に近いでしょう。旋回時の心地の悪いトルクステアなど微塵も発生しませんし、妙なアンダーステアも出現しませんので下手をすれば「よくできたFR」だと勘違いして乗る人も出てくるかもしれません。・・・クワトロは雪道での走破性、安定性こそが売りだと考える人も多いかもしれませんが、現代都市のトラフィックを考えますとそれはそれとして重要ですが、何よりも荒れた路面や、雨天時含めた濡れた路面での信頼性こそクワトロである意味が実感できる瞬間だと思います。

私も乗っている間に路面不整の多い峠や、濡れている峠を走る機会がありましたが、トラクションをかけていっても破綻する気配なく、凸凹でクルマが上下左右に揺さぶられるシチュエーションでも安心して踏んでいくことができ、車両はまったく不愉快な挙動を生み出さないまま400PSのハイパワーを路面に伝えきっていました。

同時にサスペンションセッティングは弱アンダー傾向で、まさに万人向けの安定型セットだと言えると思います。前後駆動のリアルタイム調整がうまくいっているため、コーナリング中の追い舵角時にも素直にノーズがさらにインを向き、リアが外側へ大きく振られる様な挙動も発生しません。少し乱暴にスロットルを開けると一瞬大きめのアンダーが出かかりますが、すぐにリアの駆動がオーバーラップすると同時にフロント内輪の巻き込み駆動がかかり、ニュートラル方向へ車両が動きを修正してしまいます。

いいことづくめのサスペンションの様ですが、私が気になったのは結構イニシャルのサスセットが「硬め」だということです。「Drive Select」を「Comfort」にしていても、突き上げる様な初期入力が伝わってくるので、終始ピョコピョコ動いてる印象を得ます。おそらく助手席やリアシートの方には不評な硬さじゃないかな・・・と。イメージとは違い、私が普段乗っている911の方が腰に伝わってくるショックの質は角が丸く、柔らかいほどです。特に、凸凹が続く路面ではショックアブゾーバーのリバンプ側が弱いのか、ショックがすぐに伸び方向へ動き硬いタイヤがポンポン路面で跳ねている感触が強く伝わってくる点は「RS」としての味付けとも取れますが、全てをスマートにこなすアウディとしてはやや気になる質感の低さでした。

私が乗っていた個体はオプションの「マグネティックライド」が装着されていましたので、サスペンション内の磁性流体が衝撃入力に対しリアルタイムでアブゾーバーの硬さを変化させ、よりフラットライドを実現しているハズなのですが、タイヤ面圧は確保できているとは思うものの、乗り心地が良いかと聞かれたら「そうでもない」と答えるでしょう。車両価格が全然違うので比較すること自体ナンセンスと言われるかもしれませんが、マグネティックライドのような高度な技術を使用していないパッシブサスモデルの「McLaren 570S」に乗っていた時の脚の動き、乗り心地の方が圧倒的に「良」でした。「570S」は乗り心地は柔らかく、タイヤ面圧は驚くほど高い印象がステアリングから伝わってきますが、車体のロールとピッチは少なく、それを実現しているのがただのスプリングとショックアブゾーバーだと言うのですからマクラーレンのサスセッティング(シャシーセッティング)のすごさに感嘆した覚えがあります。・・・まぁ「570S」はカーボンボディシェルですけどね。。。

McLaren 570S

とはいえ、アウディに乗るといつも感じるのが衝撃の伝わり方が少しプラスチッキーといいますか、脚の動きでショックをコントロールしているというよりは、タイヤのたわみが重要になっている様な、少し重厚感のない衝撃感なんですよね。これが疲労感を少なくしている技なのかもしれませんし、深いところは分かりませんが、私には少し車の動きはペラペラしている印象となって毎度伝わってくるのです。

●Sトロニック

さて「RS3」はツインクラッチ方式の7速セミオートマティック・トランスミッション「Sトロニック」を積んでいます。ツインクラッチ式はもう現代ではなんも珍しくはないのですが、ここも各社味付けは異なりますので同じ様な技術なるも、日々ツインクラッチである「PDK」のポルシェに乗る私には些細な違いが新鮮です。

走行した印象よりも、スペックシートを読んで一番驚いたのは以下です。

1速2速3速4速5速6速7速
RS33,5622,5261,6781,0210,7880,7600,634
991 C2S3,9102,2901,6501,3001,0800,8800,620

ポルシェとは全く異なるギア比の設計ですよね。しかも、5速で既に「1,000(直結)」を割り込み、5速と6速などあまりにも微細なギア比の差です。しかしながら、乗っている時のギアのつながりはクロスミッションの様に、スパスパ気持ちよく繋がるんです。かなりフィーリングが良いんですよね。でも数値上は相当に各ギアの数値が離れています。通常だったら上記の3速から4速など、とんでもない回転差が生まれるので使いたくもないギアの移動となると思いますので、体が得ている感覚と、数値上のギアのつながりの予測値では理解を超えた不気味さがあるわけです。

この気持ち悪いギア比がなぜここまで気持ちよく乗れるのか?それこそがアウディの技術集団としての変態性をよく表している部分だと私は思ったんですが、こういうことでした。

 

◆ファイナル(最終減速比)

「Porsche 991S / PDK」→「3,440」

「Audi RS3 / S-tronic」→「4,058」(1,4,5速+リバース)「3,450」(2,3,6,7速)

 

おいおい、ファイナルが2種類入ってるのかよ(汗)

ほぼPDKと同じ減速比が「2,3,6,7速」、そしておそろしくローギアードな減速比が「1,4,5速」に適用されているのです。なんでこんな面倒臭いことしてるのか分からないのですが、この「Wファイナル構造」により、なんともつながりの良い、スムーズなギア比が達成されている様です。これを補正して考えると、前回のケイマンのファイナルが911とは異なりローギア型となる「3,620」を使用していたのと似た様なことをしていることは分かりますが、素直にそうしないあたりが理解に苦しむアウディの変態性だと思います。・・・と思って調べてみたら「VW」にも同様なことが起きているらしいので、システムを共有していることが良く分かります。どうもアウトプットシャフトが2本あるから・・・と書かれていますが、それでもその2 本を同じ減速比にできる気もするので、ちょっと詳しい人教えてください(笑)。

それ以外のこのDCTの印象としては、中速領域の走行ではどうもクラッチミートが2段階あるというか「ミート」→「ロックアップ」みたいな動きをするので「スパン!」と次のギアにエンゲージされている印象を得にくいんですよね。体感的にはよくできたトルコンATみたいな雰囲気なんです。かっ飛ばすと「スパッ!」と繋がっていかにもツインクラッチミッションなんですが、街中やゆっくり走っている時はなんとも煮え切らないミッション(クラッチ)の動きをします。これは私見ですが、湿式クラッチを使用するPDKと、乾式クラッチを使用するVW系DCTのクラッチ保護の違いかな、と。湿式のPDKはかなり繊細な半クラをカマしてもクラッチの保護ができる構造ですので、ジワ〜ピタッ!ってのが出来るんでしょうね。そうじゃないVW系はそれやっちゃうとクラッチプレートがガンガン減って、且つ温度も上がってしまいますので何かシステム的にクラッチミートの衝撃を和らげる方法を取り、最終的にミートした出力を伝える様にしているため私には2段階ミートに感じられたのではないかと思っています。

逆に上記の理由からか、走り出しの時のクラッチミートはVW系の方が「ガツン」と繋がる印象で、ジワ〜っと走り出すことが難しい瞬間がままありました。あとは、アウディ系全般的に言えるのですが「エンジンブレーキの効きが悪い」ですよね。これわざとだと思うんですけど、なんでなんでしょう。「RS」は効く方ではありましたが、どうもポルシェやBMWよりブレーキに頼る機会が多くなってしまいます。ここだけは毎回好きになれないアウディの特徴でもあると思います。

● カーボンブレーキ

乗っていた車両には約66万円のオプションとなるカーボンブレーキも付いています。というか、ポルシェで110万とかするカーボンブレーキが66万っておい安いなぁ!と思ったんですが、そのこころは「フロントのみだから」でした(笑)。というか、巨大なカーボンブレーキが付いているフロントに比べ、リアはだいぶ小径の鋳鉄製ローターに加え、シングルポッド?の小さなキャリパーです。「え?こんなんでいいの?」と思いましたが、確かにリアに重量物はないですし、荷重という意味ではまぁいいのかもしれません。

とはいえ、やっぱ結構フルブレーキかますと「前傾姿勢」でしたし、追い込んだブレーキをした際には直線だったのにリアが流れるというポルシェのブレーキではあり得ない怖めの挙動が出ましたんで、ほんとにこれでいいのかなぁ?とは思いましたけど。・・・ただ、レースに出ている「RS3 LMS」のブレーキも大きさ的にはそんな感じ(かなりブレーキバランスやパッドで調整はされていると思いますけどね・・・)なので、そういうものだと納得はしましたが、個人的には違和感が残りました。

またカーボンブレーキはたしかに効きますが、温度変化にかなりシビアでしたので日常利用ではかえって面倒臭いなぁとも思いました(笑)。私ならこれは必要のないオプションだと判断するでしょう。温度によって狙った制動力が異なる踏力で発現するのでコントロールが難しく、ブレーキを踏むのが楽しいと思えなかった点も大きいですね。また、パッドが当たっていた部分と、当たっていなかった部分のローター温度が違うことにより同じ踏力にも関わらず、ローターが回るごとに強く効く、弱く効く(微細な差ですよ)が繰り返し発現するのでこれまたジャダーが出ているローターの様な雰囲気で・・・。まぁ、もう多くは書きませんがどうなんでしょうね、これ。

● 総評

さて、総評です。

「RS3」の総合的な印象としては「めちゃくちゃよくできているコンパクトスポーツ」という感じです。ゆったり街を流すのも、攻めて走るのも双方の期待に十分に応えてくれます。快適で上質なインテリアや、疲労感の少ないシートや操作系も現代アウディの良さを凝縮した素晴らしい出来栄えであり、これが700万〜800万で買えるというのは詰まっている技術や、使用されている素材、総合的なパッケージを考えるとバーゲンプライスの様な印象さえ受けます。そして、パワーも400PS/48.9kgmという一線級の容量を備えており「どこに不満があるんやねん」という仕上がりになっております。事実、今回はスーパー耐久の往復や、ちょっとした山遊びで1,000km以上を共にしましたが慣れれば慣れるほど、この車の美味しい乗り方が身体に入ってきて、とても楽にハイペースを維持できる安心感と、瞬発力にたっぷり驚かせてもらったというのが正直な感想です。

 

一方で、では「RS3をマイカーとして乗り倒したいか?」という問いに対する私の感想は、以下の様なものになってくるかと思います。

 

まず「RS3」をドライブしていて終始感じる印象としては「車が勝手に走っている」という雰囲気でした。きっと仕上がりが強烈に良いんでしょうね、ある一定の領域までは「誰が乗っても変わらない」クルマでして、自分が手綱を握っている感覚に浸れないんです。現代アウディによくある現象ですが、ドライビングの操作に対するインプットとアウトプットがとてもデジタルな感触が強く、難しい表現にはなりますがドライビングに対して常に「他人事感」がつきまとうといいますか、ステアリングとタイヤ、スロットルペダルとクランクが分離して自分の中では認識されちゃうんですよね。かつての「E36型M3」の名機と言われるエンジン「S50B30」にあったような、スロットルペダルとクランクシャフトが直結した様なフィーリングであったり、ポルシェの路面を撫でている様なステアリングフィールであったりというものは存在しません。操作系は全てスイッチという感じで、そのスイッチに対する入力を、車が様々な状況に対応して、最善の形でアウトプットしてくれる・・・みたいなインプットとアウトプットが別のロジックで動いている様な錯覚を覚えます。

ホイールに「Audi Sport」って入ってるおしゃれなところは好き。

全てを最善の形で進めてくれるので多くの方にはこれがいいでしょうし、人によっては運転が上手くなったと思える方もいるでしょうが、自分の入力に対して良くも悪くも車が素直に反応して挙動が発生することを楽しみたいスポーツカー好きとしては若干期待を削がれる結果となります。

エントリーライトの夜のライトアップもおしゃんてぃ。

そのことが結果として「ハイパフォーマンスカーなのに気負わず乗れる」という「RS3」の素晴らしいUSPを生んでいる気がしますので、この辺は好みかと思います。また、このデジタルなインプットとアウトプットの関係が理由かもしれませんが、長距離走行での疲労の少なさは特筆できるかと思います。この点はBMWやポルシェより上ですし、場合によってはメルセデスよりも上かもしれません。自動運転系のサポートを使わずに走っても、とにかく疲れが来ないんです。中速域での圧倒的なトルクに寄るものも大きいでしょうし、好きな系統ではありませんが車内への衝撃の伝わり方なんかも功を奏しているのかもしれません。そういう意味で、実際のレースカーとなると様々なつくりは違いますが、哲学的に一緒であろうということを踏まえると、ル・マンやニュル24Hなどでアウディ勢が上位に来る、または昨年の鈴鹿10Hなどでも上位に来ていたというエンデュランスレースでの総合的な戦績の良さはドライバーの疲労が少ないという点も大きくアウディのクルマ作りが寄与している気がしてきました。

また、長距離という視点で考えますと、室内のサウンド環境は素晴らしいです。「Bang & Olufsen」がオプションで装着されていましたが、現代アウディのオーディオ音場はとてもよくできており、心地よいサウンドを聴きながら走れるという点でドライブを快適にしてくれています。991ポルシェのクソみたいな「Bose」サウンドシステムとか・・・本当にオプションでこれかよ、って思いますもんね(笑)。

アウディの淵がないミラーは本当に素敵だと思う。

ということで、総合的な「RS3」へ抱いた私の印象をまとめますと「スマートに作り込み過ぎていて、のめり込める要素がとても少ない」という感じです。なんというか、ドライビングに人間の介在する部分が少ない、って印象を受けちゃうんですよね。ある意味この車格で峠やクローズドコースにおける速さが欲しい、という意味ではかなりの戦力ですので、ドライビングの質感を無視した「ビジネス相棒」として選ぶのであればなかなか最強かもしれないです。「溺愛するパートナー」という雰囲気ではないですかね。

 

まぁ、とにかくスマートです。

 

やっぱポルシェは血管にオイルが流れている人向きといいますか、人間くさいクルマですが、もっと現代の若い世代の方としたらこういうクルマ作りがしっくりくるかもしれません。

 

スマートに速く。

 

これが「RS3」に対して私が抱いたインプレッションとなります。

さて、次は何を乗りましょうかね。クルマネタ書くのも結構楽しいんです。

●あ、文中にちょいちょい出てきていた「718ケイマン」のインプレッション記事はこちらです!

ではまた!

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この記事を書いた人

東京でプランナー・コンサルタントとして働きつつ、様々なフィールドで遊ばせてもらっています。

ON / OFF問わず日本各地、世界各地へ出かけることが多いこと、そして移動手段
である航空機が大好きなのでそんな日常を多くの人と共有しようとブログを書いています。また、最近では愛車ポルシェ911での日々を綴るYoutubeチャンネル「Nine Eleven Cruise」も更新していますので、こちらも是非チャンネル登録の上御覧ください。

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